研究内容
マイクロ・ナノスケールの材料の力学現象,特に超高速変形や衝撃破壊といった極限的な現象を支配する普遍的法則を追求(サイエンス)し,合理的にモデル化(エンジニアリング)することで,様々な分野の材料(素材,部材,構造体)の開発に貢献します.例えば,電子デバイスや自動車,航空宇宙などの次世代輸送機で活躍する先進機械材料から,機能性高分子などのエネルギー材料まで幅広くカバーし,原子レベルのシミュレーションや超精密なマイクロ・ナノ力学実験を駆使して研究を進めております.これにより最新のナノテクノロジーモノづくりの基盤となる新たな強度学の構築を目指し,さらには材料科学と材料強度学の両側面から,壊れにくい新たな多機能材料の創製やその特性評価(分析技術の開発)に関する研究を行っております.
最近では以下のような研究活動を中心に実施しております.具体的な研究成果については徐々に掲載する予定です.既に公表している成果・論文についてはこちら.
マイクロ・ナノ粒子の高速飛翔と表面改質技術の開発(材料創成と表面加工)
〈新規な結晶構造の創成と高機能表面の創出〉
レーザー誘起アブレーションによるマイクロ・ナノスケールの微小粒子を高速で射出する技術(レーザー誘起粒子衝撃試験法:Laser-induced particle impact test: LIPIT)を開発しています.対象材料への粒子衝突速度は1,000m/s以上のHypervelocity領域であり,その衝突時の高速塑性変形による表面改質技術を開発しました.このような超高速で超短時間な衝突現象は,ナノ秒時間で高い衝突圧力に達するため特異な材料現象を引き起こし,その力学現象の解明を研究しております.例えば,転位運動よりも高速な強制変形によって新しい加工硬化層(ナノ双晶やナノ結晶化)の生成が期待でき,それによる材料強靭化を目指しています.さらには高速衝突に起因した化学反応による材料結合(コーティング),メンブレン材料などの微細穴あけ加工,ディンプル加工による摺動面の耐摩耗性付与,そして超高速衝突による材料損傷研究(スペースデブリやスペースダスト)などへの展開も期待でき,広範囲な基盤研究領域として発展させています.
▪️Keywords
マイクロ・ナノ粒子,超音速飛翔,高速衝突,表面改質,耐疲労強度,摺動特性,衝突シールド材料
公益財団法人JKA マイクロ・ナノ粒子の極超音速飛翔の実現と材料高機能化ピーニング補助事業
科学研究費補助金(挑戦的研究) 高速飛翔ナノ粒子による2次元原子薄膜への貫通の力学研究とナノポーラス化への展開
科学研究費補助金(挑戦的研究) 高速飛翔マイクロ・ナノ粒子の速度計測と表面改質技術の開発
Miki Kajihara, Kanari Nagaami, Takeru Miyagawa, Toshiyuki Kondo, Akio Yonezu, Development of a Velocity Measurement Method for a Microparticle Projectile and High-Speed Impact Testing of Metallic Materials for Grain Refinement.
梶原美紀,米津明生 「粒子移動速度計測装置及び粒子移動速度計測方法」,特願
超高速荷重等の極限状態における接合界面の信頼性(衝撃破壊と検査技術)
〈次世代の高速輸送機の開発に向けて〉
各種輸送機の軽量化に不可欠な接着接合に関する研究を行っています.材料の超軽量化や強靭化は自動車,鉄道,航空機などの各種輸送機の材料技術において必須です.更なる軽量化を目指して溶接やリベット構造を可能な限り削減した接着接合技術が注目されていますが,負荷速度の影響や周囲環境の効果による経年劣化,さらには製造プロセスによる予期せぬ強度低下(弱接着問題)など様々な課題があります.特に輸送機の高速度化プロジェクトでは超高速荷重(超高負荷速度域や衝撃荷重など)における材料強度問題が重要となります.そこで,本研究ではレーザー衝撃試験法(Laser Shock-wave Adhesion Test: LaSAT)などを独自に開発して,超高負荷速度域の特異な力学環境における接着接合体の強度信頼性評価を行っています.また界面近傍において原子・分子シミュレーションを行い,分子レベルでの変形・破壊プロセスの解明,弱接着の健全性や検査の効率化,界面の強靭化に向けた最適分子構造設計に関する研究を行っています.
▪️Keywords
接着接合,マルチマテリアル,界面強度,レーザー衝撃波,スプリット・ホプキンソン棒(SHPB)法,衝撃破壊,環境効果(経年劣化・弱接着),界面欠陥の迅速検査
科学研究費補助金(基盤研究B) 超高負荷速度域における樹脂・金属接着接合体の界面強度評価と強度発現機構の解明
Kohei Kanamori, Yoshikatsu Kimoto, Shuto Toriumi, Akio Yonezu, On the Cyclic Fatigue of Adhesively Bonded Aluminium: Experiments and Molecular Dynamics Simulation.
Kohei Kanamori, Yoshikatsu Kimoto, Shuto Toriumi, Akio Yonezu, Evaluation of Adhesion Durability of Ni–P Coating using Repeated Laser Shock Adhesion Test.
バッテリー材料のミクロ構造に基づく強度設計とリサイクルの力学
〈革新型蓄電池システムの構築〉
〜準備中〜(一部は機密保持)
▪️Keywords
保田昇太郎,米津明生「薄膜密着強度評価方法、薄膜密着強度評価装置及び試験用基板」特許
Kazuma Ogata, Wenxia Tan, Yoshinori Takano, Akio Yonezu, Jun Xu, Mechanical Characterization and Modeling of Microstructural Deformation of Si Anode Sheet.
Kazuma Ogata, Yuto Kasuya, Xiang Gao, Yuto Shibayama, Aoi Takagi, Akio Yonezu, Jun Xu, Adhesion Strength of Active Material Layer/Cu Foil Interface in Silicon-based Anodes.
超軽量 + 衝撃吸収能を有する構造デザイン
〈機械学習と離散構造化による特異な力学機能の発現〉
近年のカーボンニュートラル政策の状況に鑑み,超軽量な構造材料の開発が進んでいます.素材自身の性能向上には限界はあるものの,微細加工技術や3次元造形技術(3Dプリンタ)の目覚ましい発展により,材料内部に多様な空間構造(ポーラス化・離散構造化・階層性)の設計が可能となることから,力学自由度が格段に増え,新たに軽量かつ高機能な材料開発の可能性があります.本研究では,特殊な3次元造形技術(ソフトとハードマテリアルの複合化)と材料力学を用いて,超軽量かつ衝撃吸収が行える新しい構造体の設計と創製を行っております.特に有限要素法と力学理論によって性能を予測し,機械学習を用いて材料性能を最大化させる離散構造の形状を創出する研究を行っております.その他,材用内部に空間的なネットワーク構造を形成できることから,膜分離機能(水処理)材料の開発や電池材料といった環境・エネルギー材料の開発を数値解析および実験の両側面から行っており,実用化を目指しております.
▪️Keywords
微細加工技術,3次元造形技術,セル構造体,階層性,機械学習,構造最適化,衝撃吸収,ソフトマテリアル,力学自由度,エネルギー・環境材料
科学研究費補助金(基盤研究C) 多孔質高分子膜の変形と破壊
3Dイメージング解析に基づくナノポーラス高分子水処理膜の微視構造設計と長寿命化
統計学的学習型高信頼性3Dソフトマテリアル造形・評価システム
Aoi Takagi, Ryo Ichikawa, Takeru Miyagawa, Jinlan Song, Akio Yonezu, Hideki Nagatsuka, Machine Learning–Based Estimation Method for the Mechanical Response of Composite Cellular Structures.
Yasuhisa Kodaira, Tatsuma Miura, Shoma Ito, Kanako Emori, Akio Yonezu, Hideki Nagatsuka, Evaluation of Crack Propagation Behavior of Porous Polymer Membranes
Shouichi Iio, Akio Yonezu, Hiroshi Yamamura, Xi Chen, Deformation modeling of polyvinylidenedifluoride (PVDF) symmetrical microfiltration hollow-fiber (HF) membrane
マイクロ・ナノ視点(原子レベル)からの自律的材料探索と材料強靭化
〈高信頼性の電子デバイス開発に向けた材料創成〉
従来よりも格段に優れた強度性質や機能を発現する材料探索に関する研究を行っています.原子・分子シミュレーションから材料特性を予測しつつ,一括で多くの材料を創製できるコンビナトリアル成膜を用いて強靭な材料や低摩擦材料の探索を行っています.また,材料探索にはベイズ最適化を用いて効率的に最適材料を自動探索するシステムを確立し,マイクロ・ナノ力学実験と融合してハイスループットな材料探索システムの構築を目指しております.現在までには,電子デバイス材料の強靭化,界面の強度信頼性,超高真空や宇宙環境に応用可能な固体潤滑薄膜の創製などを研究し,理論計算とマイクロ・ナノ実験によってマテリアルズ・インフォマティックス研究を進めております.
▪️Keywords
分子動力学法,第一原理計算,ニューラルネットワーク,マテリアルズ・インフォマティックス,コンビナトリアル成膜,マイクロ・ナノ材料強度実験,ベイズ最適化マッピング,逆解析
Takeru Miyagawa, Kazuki Mori, Nobuhiko Kato, Akio Yonezu, Development of Neural Network Potential for MD Simulation and Its Application to TiN
Takeru Miyagawa, Yugo Sakai, Kazuki Mori, Nobuhiko Kato, Akio Yonezu, Keiji Ishibashi, Distribution of the Mechanical Properties of Ti–Cu Combinatorial Thin Film Evaluated Using Nanoindentation Experiments and Molecular Dynamics with a Neural Network Potential
「インデンテーションマッピング装置及びインデンテーションマッピング方法」特許
機械学習による探索材料の全自動ハイスループット力学特性評価技術,A-STEP 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)
応用研究と実用化
レーザー誘起粒子衝突試験による高機能表面の創成
レーザー超音波による非破壊検査,レーザー衝撃波を利用した複合材料の健全性診断
ナノマテリアル(グラフェンや層状物質)の貫通力学と衝突シールド材の開発
研究領域
ナノ・マイクロメカニクス
▪️Keywords
原子間力顕微鏡,走査型電子顕微鏡,微小力学試験,マイクロ・ナノインデンテーション,破壊,塑性,残留応力
ナノポーラス材料の創製と評価
ナノサイズの孔が無数にあいているユニークな微視構造を持っているナノポーラス材料は多く開発されています.例えば,安心な水資源を提供する膜分離技術のナノフィルター材料では,ナノ孔のサイズや配列が濾過機能の鍵ですが,これらは材料全体の強度や寿命にも大きく影響を及ぼすため,ナノ孔の最適化,つまり濾過機能と強度のバランスを検討しています(ナノ構造のデザイン).さらには,新たなナノ細孔の創製法についても検討し,「構造設計-創製-評価」といった一連の研究を実施しています.
▪️Keywords
3次元空間構造体,マイクロ・ナノポーラス材料,変形モデリング,流体,水処理膜,セパレーター,高分子膜,グラフェン
高機能・高変形能ナノマテリアルのデザイン
材料の寸法をナノスケールまで縮小すると,変形せずにすぐ壊れてしまう性質を示し,これが微小デバイスの製造を難しくさせています.そこで自己組織的な微細構造の生成、薄膜の多層化やポーラス化などといった様々な試みによって高い変形能を有する多機能材料の開発や,その応用研究を行っています.
▪️Keywords
蒸着装置,コーティング,表面・界面,微細構造,変形,数値計算
非破壊評価・損傷モニタリング
化学プラントや社会インフラのような大型構造物の経年劣化や損傷を検知し、未然に破壊事故を防止する非破壊評価技術の開発しています.また、異種材料や複合的な材料の界面性状や強度特性を非接触で測定できるレーザー誘起衝撃波システムを開発しています.
▪️Keywords
パルスレーザー,超音波,アコースティック,電気化学測定,X線CT,環境劣化,疲労,界面強度